DebianでFcitx5を使用してSKKを設定する

提供:Memorandum

Debian GNU/Linuxを含む*NIX系OSで、日本語をはじめとするマルチバイト文字を問題なく入力できる環境を構築するには、何を使いどう設定すべきか、というメモ。

日本語圏でも該当者は非常に少ないだろうが、管理人には必須のハックなので、事象/原因/対策/経緯を下記に残す。

【事象】Webブラウザでだけ日本語が入力できない

管理人は、「RPN以外の電卓が使えない」のと同様に「SKK以外の日本語入力が使えない」[1]という不治の病に冒されている。恐らく死ぬまで治らないし、治すつもりも一切ない、極めて平和的だが厄介な宿痾だ。

ある時、下記の条件をすべて満たすと、一部のアプリケーションソフト(特にWebブラウザは種類問わず)で日本語が入力できない事象に遭遇した。

管理人がDebianでデスクトップ環境を新規に構築する流れ作業の1つで、今まで引っ掛かったことすら無かったのだが、今回はなぜかWebブラウザでだけSKKをONにできず日本語が入力できない。試しにDebianを丸ごと再インストールすること3回、やはり同じ事象が発生し続けた。インターネットに接続して運用することが当たり前となった現代のLinuxホストで、使用頻度が最も高いアプリケーションソフトであるWebブラウザでだけ日本語が入力できない(=検索できない)のは致命的[2]だ。

【原因】通信プロトコルとアプリケーションフレームワーク

「世に数多あるLinuxディストリビューションでソフトウェア品質に最も厳格なDebianで必ず発生するということは、SKKの設定云々ではなく、根本的な原因が別にあるはずだ」

サーバにしろクラインアトPCにしろ、それらにインストールするOSを自由の選択できるとき、管理人はかれこれ20年以上、Debian GNU/Linuxだけを採用し続けている。その理由は先述の通り『世に数多あるLinuxディストリビューションでソフトウェア品質に最も厳格』だからで、それが証拠に、通常運用中にどれだけ過負荷になろうともサーバやPCがフリーズまたはストールした経験は1度も無く、aptコマンド一発で永遠にメジャーアップグレードし続けることが可能だからだ。ここまで堅実かつ堅牢で、日常の運用がストレスフリーなOSは他に無い。Windowsなんぞとは比較すること自体が失礼だ。管理人はDebianに全幅の信頼を寄せている。

そんなDebianで必ず発生するということは、Debianが提供しているソフトウェアの問題ではなく、他に決定的な原因が別個に有るはず。それを把握しないことには対策を打てない⸺そう踏んだのだ。

週末の土日を丸々潰して調べ倒したところ、2つの原因が抽出できた。

  • 1つは、*NIX系OSのデスクトップ環境特有の実装であるディスプレイサーバとクライアント間の通信プロトコルの差だ。
    KDE Plasma 5では、ディスプレイサーバとクライアント間の通信プロトコルにX Window System (X11)だけではなくWaylandを採用している。管理人が20年以上お世話になっていたuimをはじめSCIMもIBusもX11だけをサポートしWaylandは未サポートで、今後もWaylandをサポートする予定が無い[3]とも聞く。故に、uim/SCIM/IBusを使用している限りはX11のみで日本語の文字コードを送信することになり、Waylandを使用できない。
  • もう1つは、アプリケーションフレームワークの差だ。
    KDE Plasma 5はQtをベースに構築している。それが理由なのか詳細は不明だが、KDE Plasma 5のディスプレイサーバがクライアントに日本語の文字コードを送信する際、そのクライアントがQtをベースに構築したアプリケーションソフトの場合はX11でもWaylandでも正常に完了するものの、GTKをベースに構築したアプリケーションソフトの場合、Waylandでは正常に完了するが、X11では正常に送信できず異常終了[4]する。

この2つが重なると、冒頭に記した条件をすべて満たしたときにこの事象が発生することが理解でき、かつ、この事象がWebブラウザでだけ発生するのも納得できる。FirefoxにしろMicrosoft Edge for LinuxにしろVivaldiにしろ、現行の各種WebブラウザはGTKをベースに構築されているからだ。管理人が常用するWebブラウザ以外のアプリケーションソフトでは、GTKで構築されているEasyTagでも同じ事象が発生し、日本語を入力するだけで自身ばかりかKDEをも巻き込んでハングアップしてしまうが、KDEのデフォルトのファイラであるDolphinKonquerorはQtで構築されているため事象が発生しない。

これら直接確認できた一連の挙動と2つの原因を擦り合わせても、見事に辻褄が合う。原因はこの2つで確定だ。

【対策】Fcitx5へ乗り換える

即ち、クライアント-ディスプレイサーバ間の通信プロトコルとしてX11とWaylandの両方をサポートし、アプリケーションフレームワークもGTKとQtの両方に対応したインプットメソッドフレームワークを使用すれば、この事象は発生しない⸺これが原因から導き出される対策となる。

2024年時点でこの条件を満たし正常に機能するインプットメソッドフレームワークはFcitx5のみ[5]だ。ソースコードも現在進行形でメンテナンスされており、バグフィックスもある程度は期待できる。これを期にuimからFcitxへ乗り換える以外にあるまい。

現在のFcitxは[ˈfaɪtɪks]と発音する[6]決められているが、かつてはFree Chinese Input Tool of Xの略であったことから解るように、当初はX11で中国語を入力するためのインプットメソッドフレームワークとして開発されたものだ。その汎用性の高さから、現在では中国語以外のアジア圏のマルチバイト文字入力で使われるようになり、Debianの公式debパッケージには中国語の他に日本語/朝鮮語/タイ語/ベトナム語がある。管理人は日本語と英語しか解せず、それ以外の言語には不案内だが、中国語/日本語以外の言語でも公式にdebパッケージとなっていることから、これらも正常に機能していると判断している。

下記がFcitx5を使用してSKKを使うための設定手順である。これを実行すれば、ベースにしているアプリケーションフレームワークがQtだろうとGTKだろうと、すべてのアプリケーションソフトでSKKによる日本語入力が問題なく可能となる。

なお、下記の手順は、管理人の趣味・嗜好により、LinuxディストリビューションはDebian、デスクトップ環境はKDEを選択した場合に適用できる。もし英語キーボードを使用している場合は、項番5のキーボード - 日本語を該当するもの(例えばキーボード - 英語 (US)など)に差し替える必要がある。SKK以外のインプットメソッドエンジンを使用する場合は、項番1のfcitx5-skkを、mozcであればfcitx5-mozcに、Anthyであればfcitx5-anthyに、項番6のSKKmozcまたはAnthyに、ぞれぞれ差し替えれば良い。


  1. kde-config-fcitx5fcitx5fcitx5-skkをインストール後、デフォルトでインストールされているuimuim-mozcをアンインストールする。
    # apt install --install-recommends fcitx5 fcitx5-skk kde-config-fcitx5
    # apt remove --purge uim uim-mozc
  2. ユーザディレクトリの~/.config/environment.dに、下記の3行だけを保存したim.confを置く。

    XMODIFIERS=@im=fcitx
    GTK_IM_MODULE=fcitx
    QT_IM_MODULE=fcitx

  3. ユーザディレクトリの直下に、下記の3行だけを保存した.xsessionrcを置く。

    XMODIFIERS=@im=fcitx
    GTK_IM_MODULE=fcitx
    QT_IM_MODULE=fcitx

  4. OSごと再起動する
  5. タスクバー左側のアプリケーションランチャーから [設定] → [KDE システム設定] → [入力デバイス] → [仮想キーボード] と進み、Fcitx 5を選択後、[適用(A)]を押下する。
  6. 同じく [KDE システム設定] → [地域と言語] → [入力メソッド] と進み、[入力メソッドオフ]にキーボード - 日本語を新規に追加後それ以外すべて削除、[入力メソッドオン]にSKKを新規に追加し、[適用(A)]を押下する。
  7. 再度OSごと再起動し、Fcitx 5が自動で起動する(タスクバー右側にSKKのアイコンが表示される)ことを確認する。
    1. 表示されない(SKKで日本語が入力できない)場合は、OS起動時にFcitx 5が自動で起動しないことが原因なので、手動で追加する。
      タスクバー左側のアプリケーションランチャーから [設定] → [KDE システム設定] → [起動と終了] → [自動起動] と進み、[+Add…] から [+Add application…] を選択、ポップアップメニューが表示されるので、[ユーティリティ] からFcitx 5を選択後に [OK] を押下して追加する。
      追加完了後に再度OSごと再起動し、Fcitx 5が自動で起動する(タスクバー右側にSKKのアイコンが表示される)ことを確認する。
    2. 表示された(SKKで日本語が入力できた)場合は、SKKの詳細を設定する。
      設定変更後はそのSKKのアイコンを右クリック、ポップアップメニューから [設定の再読み込み] を選択して実行し、変更したSKKの設定を反映させる。


上記の手順は、最初に~/.config/environment.d/im.confでWaylandの挙動を、次に~/.xsessionrcでX11の挙動を、それぞれ、XMODIFIERSパラメタでKDEが使用するインプットメソッドフレームワークをFcitx5に指定し、GTK_IM_MODULEパラメタとQT_IM_MODULEパラメタでクライアントのアプリケーションフレームワークがGTKだろうとQtだろうとインプットメソッドフレームワークはFcitx5だと宣言、仮想キーボードにFcitx 5に設定することでFcitx5を有効とし起動させ、Fcitx 5が文字入力を受け付ける物理キーボードの種類とFcitx5用の日本語入力エンジン(この場合はSKKなのでfcitx5-skk)を設定する操作である。こうすることで、ユーザが物理キーボードから入力したマルチバイト文字は、使用した物理キーボードの種類とインプットメソッドエンジンを基に仮想キーボードであるFcitx 5が適切に変換、ディスプレイサーバはWaylandでもX11でも仮想キーボードから渡されたマルチバイト文字をクライアント(各アプリケーションソフト)に正常に渡すことができ、入力が完了する⸺このような実装になっている。

言い換えると、アジア圏のユーザが所望する言語のFcitx5用インプットメソッドエンジンが既にラインナップされていれば、それらの中から適宜選択してインストールするだけで済み、もしラインナップされていなければ、その言語用のインプットメソッドエンジンを開発しさえすれば良い。「仮想キーボード」という概念を導入することで統一した設定画面と方法をユーザに提供できるため、従来のuim/SCIM/IBusと較べてスマートな実装だ。

気を付けなければならないのは、入力メソッドをON/OFFするホットキーに、多数の言語キーボードで使用できる設定が予め入っていることだ。Debianでdebパッケージ化されインストールできるkde-config-fcitx5には中国語の他に日本語/朝鮮語/ベトナム語のキーボードでも入力できるホットキーがデフォルトで設定されているが、これらは誤操作を頻発させる原因にしかならない。日本語キーボードで入力できるホットキーには 全角/半角Ctrl - SPACE の2つが設定されているものの、EmacsではピュアなSKKの実装であるddskkを常用する管理人のようなユーザにとって Ctrl - SPACE は比較的高頻度で使用するキーバインド(選択範囲の始点を指定するMark Set)なので、ここでも設定された状態は害悪でしかない。よって、不要な設定はすべて削除したほうが良いだろう。管理人はKDE上でSKKをON/OFFするホットキーを 全角/半角 だけとし、それ以外すべての設定を削除した。

その他の詳細は下記の公式記事を参照すること。

https://wiki.debian.org/ja/I18n/Fcitx5
https://fcitx-im.org/wiki/Setup_Fcitx_5

【経緯】なぜこの事象に遭遇し格闘する羽目に陥ったのか

ここから先は、このメモを残すことになった経緯である。

発生した【事象】の【原因】が把握でき【対策】を打つことで事象が終息したなら、以降の【経緯】を読む必要はまったく無い。

2024年06月に入った途端、そろそろ無停止連続運用12年目を迎えようとしていた常用のファンレスPC(OSはDebian GNU Linux w/KDE)から、今まで聴いたことがない「キュルキュル」という微かな音が鳴り始めた。マウスカーソルを動かしたり、キーボードを打鍵したりすると、その度に音量が若干大きくなる。ずーっと鳴り続けているため耳に付くのもいただけない。

「はて。ファンレスPCなのに音が鳴るとは何事ぞ?」

いろいろ調べると、どうやらコイル鳴きのようだ。管理人は初めて聴く音なので判別できなかった。

「う〜ん。噂には聞いていたが、まさかナマで『コイル鳴き』を聴くことになるとはな…」

ルパン三世 カリオストロの城”で偽札工場とゴート札を目の当たりにしたルパンからカリオストロ公国の秘密を教えられた銭形のとっつぁんと同じフォーマットの台詞ひとりごとを吐いた己に驚くと同時に呆れながら、M/Bの状態を確認すべく、PCの電源を落とした。

ケースを開け、M/Bを眺めてみたものの、外見からは特に異常は見られなかったので、ケースを閉じ、再びPCの電源を入れたのだが⸺M/Bは先ほどと同じ音で「キュルキュル」と鳴くのみで、BIOSPostすることは二度と無かった。既にM/Bは壊れており、PCは惰性で辛うじて動いていたのだ。

「やっちまった…電源落とさなきゃ良かった!」

いくら嘆いても後の祭りである。

それにしても、可動部が多く先に壊れそうなHDDが、この約12年間で1度もS.M.A.R.T.エラーを吐かず稼動し続けたことに感動した。その間にDebianは squeeze → wheezy → jessie → stretch → buster → bullseye → bookworm と7世代もメジャーアップデートがあり、その都度aptコマンドでアップデートし続けた「Debianの権化」のような中身だが、先に壊れたのがM/Bとは…いよいよIntel Core 3rd GenerationなIvy Bridgeともお別れである。管理人の日常の使用法ではIvy Bridgeに16GBのRAMで何の不満もなく、OSがDebianだからこそ、約12年もの長寿を全うできたのだろう。ハードウェアを陳腐化させることにやたら熱心なうえにユーザには自由度をまったく与えないWindowsをOSとして使い続けていたら、ハードウェアは壊れていないにもかかわらず、疾うの昔に強制的に買い替えさせられていたはずだ。管理人はPC用OSとしてのWindows[7]とはXP Service Pack 2で決別している。

先ほどからPCがファンレスであることを強調しているが、これは管理人宅では「24時間365日いつでも使えるよう、PCは起動しっ放し」だからだ。2001年02月、社会人になって最初に住んだアパートの住所一帯がUSENブロードネットワークス(当時)が世界で初めて商用で開始した「光ファイバによるコンシューマ向けインターネット接続サービス」のサービスエリアになったため、それまでのISDNダイヤルアップバルクチャネル接続(128kbps)から一足飛びに光ファイバ常時接続(100Mbps)へ移行した際に身に付いた悪癖である。現代ではその役割は専らスマートフォンだが、2001年早春の時点で一般ユーザがインターネットを使用する端末はPCしか無く、当時はデスクトップPCのOSとしてWindows XPしか選択肢が無かった[8]うえに起動にも停止にも時間が掛かる代物だったので、それがじれったく思え、前段のルータでファイアウォールを噛まし、PC自体は24時間365日起動しっ放しにしたのだ。

ファンレスを選択する理由は「多少なりとも部屋の中の雑音を減らしたい」「モータ等の可動部品を無くしてPCを1日でも延命したい」「消費電力を削減したい」の3つ。いずれも、管理人の用途ではPCがハイスペックである必要が無く、ファンレスで排熱できる程度のスペックで十分だからこそ設定できる項目だ。尤も、ファンレスPCなどというものが影も形も無かった頃から、排熱ファンがウヮンウヮン唸るPCですら構わず起動しっ放しだった。2001年当時はSupermicro社のM/BにIntel Xeon MPをDual CPUで組んだ自作PCを使用しており排熱ファンも爆音だったが、ファンの風切り音程度では睡眠を妨げられない、得な性分であることも幸いした。

そんな2002〜2003年頃、自作PC界隈で降って湧いたように「水冷PC」なるものが話題になり始めた。PCを静音化するため、小型モータが音高らかに[9]回転させるファンをCPUに密着させて強制空冷する方式ではなく、ラジエータに満たした純水をCPUに密着させた排熱用アダプタとの間でポンプで循環させることで純水に熱を逃して冷却する方式を指すが、そのあまりの怪しさ炸裂っぷりとシステムの大掛りっぷりに、管理人は手を出さなかった。高校からの友人は物珍しさから飛びついたものの、直径15cm高さ120cmぐらいある巨大なラジエータの置き場所に困ったり、排熱用アダプタ(正しくは「水冷ブロック」というらしい)の造作が甘く隙間から水漏れしたり、純水を通すホースから水漏れしたり、純水を循環させるポンプの駆動音が割と五月蝿いうえに頻繁に壊れたりと、個人では如何ともし難いトラブルの連続に心が折れ、早々に放棄して強制空冷に戻してしまった。現在は冷媒に純水だけではなく非電導性の油も使われるため「液冷PC」と呼ばれ、パーツの精度もそれなりに上がっているのだろうが、当時の水冷パーツはコンシューマ向けにすら熟れておらず、品質が悪かったのだ。

結局、メンテナンスフリーで運用可能なコンシューマ向きの静音化は、CPUに密着させる放熱器(ヒートシンク)とPCケースを一体化させてフィンの伝熱面積を稼ぐことで放熱性能を上げて自然空冷させる方式しか残らなかった。これが「ファンレスPC」である。2005〜2006年頃に実用となるファンレスPCが出現したことで、管理人のPCの選択基準は「Linuxが動くこと」[10]とともに「ファンレスであること」を絶対条件とした。ハードウェアとしてのPCを、使用するOSを理由にした強制的な買い替え圧力から守れるのと同時に、常に高速回転し続けることから比較的短時間で故障しやすいモータを無くすことで長寿命化が期待できるからだ。

そして今回、この考えが概ね正しかったと証明できたと思う。メンテナンスフリー期間の実績値の一例が「約12年」で確定したからだ。その間はハードウェアとしてのPCに何の手も加えずに済んでおり、したがって、財布から出て行く金銭と家から出て行く産業廃棄物の量も、世間一般のPCユーザと較べて驚くほど少なく済んだことになる。今までもそうだが、これからもオープンソースソフトウェアコミュニティに足を向けて寝ることはできない。

ちなみに、管理人が約12年間連続で無停止運用していたPCは、LinuxファンレスPC専業といっても過言ではない、イスラエルが拠点のfit-pcが開発・製造し2012年06月に販売を開始したIntense PCである。RAMもHDDも購入者が装着するベアボーンが当時の為替レートで約7万円。もはや十分過ぎるほどモトは取っただろう。

話が逸れた。元に戻す。

己のミスで、不意に、自由に使えるPCが突然消えてしまった。急ぎ、ファンレスPCを購入しなければならない。

いつもなら先述のfit-pcから購入するのだが、昨年からのハマスとの戦争が原因なのか「納期は1ヶ月」だという。さすがに1ヶ月は待てないし、状況が状況なだけに、本当に1ヶ月で納品されるかも怪しい。

15年振りに国内から購入することにした。ファンレスPCといえば秋葉原のオリオスペックだ。管理人は15年前にもここから購入している。調べると、Intel Core 14th GenerationなRaptor Lake Refreshが納期1週間だという。CPUとRAMは最速かつ最大容量にアップグレードして発注した。昨今の傾向から内蔵ストレージにSSDしか選択できないのは仕方無いが、そもそも今まで運用していたHDDが壊れてないので、受領後にAYORでそれに換装すれば良い。もともと、日常使用するファイル群は自宅ネットワーク内にあるNASに放り込む運用なので、HDD内にロストして困るファイルは特に無く、Debianと若干の設定用ファイルぐらいしか入ってない。この換装で問題なく動いてくれれば万々歳だ。

が、そうは問屋が卸さない。

最近の自作PC事情に詳しい諸兄姉ならお判りだと思うが、現代の最新M/BのファームウェアはBIOSではなくUEFIである。BIOSは実装されたストレージにMBRがあれば、それを起動ディスクと見做して読み込み始め、それからOSを…と進むのだが、UEFIはストレージにEFIパーティションが無いと読み込みすらしない。しかし、管理人の手許にある12年モノの「Debianの権化」にはMBRしか無い。よって、起動できないのだ。

「そう言やぁそうだった。CSMを有効にせねば」

CSM(Compatibility Supported Module)はUEFIでもMBRを読み込ませるための救済策で、まさにこのような場面で使用するためにある。では早速…と、今回購入したASRock社のM/BでUEFIを把み、CSMをEnableに倒してみたが、驚きの内容をポップアップ後に拒否された。

CSM is disabled.
To enabled CSM, please install an external graphics card.

なんと、CSMをEnableにするには、外付けのグラボが刺さってなければならない…。

「なんだこの意味不明で理解不能な制限事項は?!」

先述のfit-pcから過去に何度か購入しているファンレスPCのUEFIにこのような莫迦げた制限は無く任意にCSMをEnableに倒せる。よって、BIOSのPCに装着していたHDDをそのまま換装できており、最初は目を疑ったのだが、何度やっても拒否されるため、現実として受け容れるしかない。

そして当然のことながら、外付けのグラボなんぞ買ってないし、買う気も無い。管理人の用途では不要なうえ、CPUより高熱を発するグラボを装着したPCがファンレスで運用できる訳がないからだ。事実、オリオスペックも「ビデオカード等、発熱の大きいカードは搭載できません」と警告している。

というか、ASRock社は、何を理由にこんな制限を設けているのだろうか?

どこかのサードベンダから「M/Bに『外付けグラボが刺さっている』と認識させるダミーのPCIeカード」が売っていれば嬉しいが、そんな都合が良いものは無い。PCを自作する理由が25年前と異なり、外付けグラボが刺さってない自作PCがマイノリティと化したご時世[11]だ、そんなものを作っても需要が無い。

万事休す。ほぼ自作PCと変わらないBTOなPCで起きたトラブルはすべて自己責任、事前に調べ切れなかった己を呪うしかない。

「仕方無い。フレッシュインストールだ」

管理人はPC用ストレージとしてのSSDをまったく信用していない[12]ので、これを期にHDDは新品に交換することにした。それは12年前に購入した予備品だ。今まで12年間壊れることなく運用できていたため出番が無く、開封されぬままデッドストックと化していた、12年物だが新品のHDDを現役復帰させ、今回購入した500GB SSDはジャンク箱にお引き取りいただいた。12年の長い眠りに就いていたところ突如叩き起こされたHDDは今、何事もなく元気に稼動している。さりとて、今回購入したファンレスPCにはRAMを最大容量である64GBも奢ったことから、HDDに切った1GBのswapパーティションにキャッシュを書き込む場面は皆無で、すべてRAMだけで賄えていることが確認できている。よって、OSやアプリケーションソフトの起動時を除く通常運用中に、このHDDが必死こいてデータを読み書きする場面はそう無いだろう。これからも末永く頑張ってもらえると考えている。

⸺こうしてDebianをフレッシュインストールした後に発覚し、丸2日ほど悩みに悩んで調べ倒したのが、冒頭の「SKKによる日本語入力不可事象」である。

脚注

  1. 会社から支給されるWindows PCには、MIT Licenseで公開されているCorvusSKKをインストールして有り難く使わせてもらっている。ホントはWindowsすら使いたくないのだが、「禄を食むには仕方ない」と諦めている。
  2. 一応、管理人が常用しているEmacsには必ず、テキストベースWebブラウザであるw3mを使えるよう仕込んではいるものの、GUIによる操作が大前提となってしまった現代のWebコンテンツを目の前に、使用できる場面はかなり限定される。あくまで非常用だ。
  3. 伝聞なので真偽は不明だが、「今からWaylandを実装するにはソースコードの大幅な書き換えが必須」なのに「メンテナが不在」らしい。
  4. もうひとつの*NIX系OSのデスクトップ環境の雄であるGNOMEはGTKのみで実装されているため、この事象は発生しないかもしれないが、面倒なので確認していない。ただ、最近のGNOMEの実装ではX11ではなくWaylandを採用しているそうなので、同じ事象が発生しそうではある。人柱求む。
  5. Wayland対応はまだ完全ではないらしい。Using Fcitx 5 on Waylandにはcertain features of fcitx that works under X11 are not yet supported by Wayland. (X11で動作するfcitxの一部の機能はまだWaylandではサポートされていません。) とある。
  6. 日本語では「ファイティクス」と発音する
  7. Blu-rayドライブの制御と書き出しにはWindowsのライブラリが必要ことから、市販のBlu-ray付きHDDレコーダにはWindows Embedded Compactが必ず組込まれている。よって、Windowsを完全に排除できない。ちなみにBlu-ray付きHDDレコーダは、HDDの制御がTRONで、装置全体の制御がLinuxで、それぞれ実装されており、内部では3種類のOSが動いていることになる。なんと無駄な実装だろうか。
  8. 2001年当時、LinuxにしろFreeBSDにしろ、X Window Systemに対応しているグラフィックカードは「そんな古いの、秋葉原のジャンク屋でも売ってないぞ」と苦笑されるような骨董品のみに限られていた。ネットワークインタフェースカード(NIC)もNE2000互換のPHYチップ以外はマトモに機能しない期間が長かった。外付けNICベンダがわざわざ「NE2000互換です」と強調し始めたのもこの頃だ。斯様な状況ゆえ、恐ろしいことに、当時のコンシューマ向けOSは事実上Windows一択だったのだ。「とりあえず試してみるか」と軽口が出る程度にはドライバが充実している現代のLinux情勢とは隔世の感がある。
  9. プロペラ/スクリュー/ファンなど呼び名の違いはあれど、羽根車(インペラ)を空気中で回転させるとき、回転口径をより小さく、回転数をより多くすると、羽根が空気を切る音の周波数が高くなるのと同時に音量が増す。この事象は物理学の問題なのでヘリコプター(回転翼機)でも換気扇でも扇風機でもドローンでも共通して発生し、PCの静音化を阻む最大の要因となる。CPUが高負荷となり高温になったことで排熱ファンが高回転すると、ノートPCから「キーン」という耳障りな音が五月蝿く鳴り響く理由はこれだ。
  10. 2004年ならいざ知らず、2024年のLinux Kernelは大概のハードウェアを自動で認識してくれるので、「Linuxが動くこと」をそこまで重要視する必要は無くなりつつある。一応、購入前にはヒトバシラーな情報は確認するのだが。
  11. 管理人が社会人なりたての25年前は「メーカの市販品より高性能で安価に収まる」からと秋葉原を歩き回ったのだが、CPU/メモリ/HDDといったパーツの性能が向上したことで一般ユーザのPCの用途を満たすには十分な性能のパーツが低価格となり、PCも市販品で問題なくなったのと同時に、PCの需要がデスクトップからラップトップ(ノートPC)に移ったことで自作が不可能となり、自作PC市場は急速にシュリンクした。その結果、ここ10年の自作PCは「高性能なグラボを載せて高精細な画像がぬるぬる動く紙芝居を観るゲームをやる」ための嗜好品へと変わり、自作PC=外付けグラボ必須=高価となってしまった。なにしろ現代のグラボはCPUと同じかそれ以上の価格なのだから当然だろう。こうして「高性能を安価に」という需要で勃興した自作PC市場は、当初と正反対な性格に変貌し、ますますシュリンクした。秋葉原の通称“自作通り”も往時の面影はほぼ無い。最近はノートPCですらハイエンドモデルにはグラボを載せて「ゲーミングノート」と名付けて売る時代だ、仕方あるまい。
    以上から、現代の自作PCで外付けグラボが刺さってないのは相当なレアケースで、しかもそれをわざわざダミーで埋めるなどという需要が皆無であることが判る。
  12. やはり24時間365日通電しっ放しで運用しているが故に、数年置きにMicroSDカードが読み書き不能に陥るRaspberry Piでの事例を引き合いに出すまでもなく、その仕組み上、書き込み回数に制限があり、それを越えると突然使用不能になるフラッシュメモリを使用しているSSDは、読み書きが頻繁に行われるPCのストレージとして不適だと断じている。HDDよりも著しく短命なのは火を見るよりも明らかだ。