HP-67/HP-97

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1976年7月1日〜1982年1月11日/1984年12月1日に販売された科学・数学向けRPN関数電卓。HP-67は可搬型、HP-97は机上設置型だが、マイクロプロセッサと実装された関数はまったく同じで、両機種専用ROMとRAMは第二世代にあたるWoodstockシリーズ向けに開発されたアーキテクチャを流用することで大幅なコストダウンを実現した。コードネームは、HP-67がHawkeye (ノースロップ・グラマン社が製造しているアメリカ海軍向け早期警戒機E-2)[1]、HP-97がKitty Hawk (アメリカ・北カリフォルニア州の街。ライト兄弟により初の有人動力飛行が成功した地)である。製品寿命としてはHP-97が約2年長いが、その理由は、HPが発売する机上設置型RPN関数電卓の最終モデルをHP-97としたことに依る配慮だろう。1980年代に入ると購入者側も関数電卓を含む電卓=可搬型という認識が当たり前となったことで机上設置型の販売数が漸減傾向となり、残り少ない需要はHP-97で賄うことにしたのだ[2]。HP-97の販売終了を以て、HPの関数電卓のラインナップから机上設置型は姿を消した。

HP製関数電卓のプログラミング環境の種を播く

両機種の共通仕様として、磁気カードリーダライラを内蔵し、メモリは26スタック分、プログラミングは224ステップ(=磁気カード1枚)分まで拡大されている。プログラミング機能では間接アドレスが指定できるようになり、ネストも3段まで許容されるよう改善されている。また、標準ソフトウェアである14本+1本のプログラム入り磁気カード、24本のブランク磁気カード、1本のヘッドクリーニングカードを1セットにした〝Standard Pac〟(00067-13101/00097-13101)[3]も附属した。

可搬型であるHP-67はHP-35の外形を踏襲して物理キーが35個しか無いため、各キーに4つの機能を割り当てるべくシフトキーがシフトキーが    と3段構えだが、机上設置型であるHP-97はサーマルプリンタを実装し筐体が大きいことから、関数だけで物理キーを24個実装できたため、シフトは  のみ1段で済んでいる。サーマルプリンタでは純正感熱ロール紙(HP 82045A)を使用するが〝幅2インチ¼=57.15mm〟〝直径45mm〟を満たす市販の感熱ロール紙であれば転用できる。管理人が調べる限り、三栄電機製プリンタSM1-21の専用補充品であるP-57-45Aが、幅はまったく同じ、直径はほぼ同じなので、使用している。HP-67は勿論、HP-97も充電池で駆動できるが、満充電後の連続運用時間はそれぞれ「3時間」「3〜6時間」と短い。専用充電池は販売停止となって久しいが、代替品の入手は容易く、その点で困ることは無い。

HP-67とHP-97の間でプログラムは完全互換する。即ち、HP-67でプログラムしたものを磁気カードに書き込み、それをHP-97に読み込ませても、HP-97は問題なくプログラムを実行でき、まったく同じ結果が得られる。逆もまた然りである。しかし、磁気カードに記録される内容は両機種で異なる。プログラミングは物理キーに割り当てられた機能や関数を呼び出す形で実行するが、このとき機能や関数を呼び出す方法が「物理キーの座標(位置)」だからだ。先述の通り、HP-67とHP-97では物理キーの数も位置もまったく異なるため、プログラムを磁気カードに保存する際は、プログラムのソースコードと一緒にプログラミングした機種を記録する。磁気カードを読み込んだ機種とプログラミングした機種が異なるときは、ソースコードにある「物理キーの座標(位置)」を、読み込んだ機種のそれに変換してからRAMに格納して実行することで、互換性を確保している。

日本では、伝説的なプログラマであり経営者であった岩田聡氏が高校生だった時、HP-67のプログラミング機能で磁気カード6枚(224ステップ×6枚=1,344ステップ)を費やしStar Trekをテーマにしたゲームを作成、それを当時のHP製品に関する日本国内での総代理店でありHPと横河電機製作所の合弁会社であった横河・ヒューレット・パッカード株式会社(YHP)に送ったところ、あまりの出来の良さに驚いたYHPがHP-67に関する大量の資料を送り返したエピソードが有名である。YHPによる日本国内での定価は、HP-67が144,000円、HP-97が240,000円。

HP-67にしろHP-97にしろ、eBayをはじめとするオークションサイトへの出品は少ないどころか、両機種とも発売から45年経過しているため、状態が良好で完動品となると珍品扱いで高価となる。特に両機の磁気カードリーダライタとHP-97のサーマルプリンタは〝故障してるのが当たり前〟なので、RPN電卓マニアが売っているDIYキットを購入のうえ公開している手順(HP-67磁気カードリーダライタの修理手順/HP-97磁気カードリーダライタの修理手順/HP-97サーマルプリンタの修理手順)に沿って自分で修理するか、有償で請け負うRPN電卓マニアに修理を依頼するかの二択となる。尤も、DIYキットは日本国内で売っておらずアメリカから取り寄せる必要があるため、DIYキットを取り寄せるにしろ修理を依頼するにしろアメリカとやりとりする手間は同じなので、最初からRPN電卓マニアに修理を依頼するほうが早い。管理人は懇意にしているアメリカ在住の信頼できるRPN電卓マニアに修理を依頼[4]することで全台を完動品とし、可搬型のHP-67は4台所有しているが、机上設置型のHP-97は、その大きさ故、2台しか所有していない。

スタック 3+1段
プロセッサクロック周波数 180kHz (Woodstock)
使用電池 HP-67 HP 82001A/B (3.6V 450mAh/900mAh 充電池:中身は単3形Ni-Cd充電池×3個直列)
HP-97 HP 82033A (4.8V 750mAh 充電池:中身はSC(Sub-C)形Ni-Cd充電池×4個直列)
製造期間 1976年〜1982年/1984年
製造国 HP-67 アメリカ → シンガポール
HP-97 アメリカ → シンガポール → ブラジル
1976年発売当時の定価 HP-67 450ドル (約132,750円)
HP-97 750ドル (約221,250円)

脚注

  1. 本機の開発に着手したと想定される1973年、E-2に実装されたコンピュータをアナログからディジタルへ換装したE-2Cがロールアウトしているが、そのディジタルコンピュータ群のひとつとしてHP-UXWindowing systemで動くAdvanced Control Indicator Set (ACIS)が含まれており、それを記念して付与したものと思われる。なお、ACISに実装されたCPUは組込専用のHP 743、のちHP 744である。
  2. 1977年1月、実装された機能や関数からHP-41CXを含むHP-41シリーズの机上設置型と見做せるHP-95Cを完成、ごく少量(50台とも100台とも)生産したものの、市場に投入しなかった。型番にCが付されていることから判るように、本機は磁気カードリーダライタの代わりに連続メモリを実装しているが、複数人で共有する形で使われることが多い机上設置型では、各ユーザがキーインしないと機能や定数を記憶させることができないうえ、使用後はそれらを忘れずに全てクリアしないと別のユーザの演算に影響を及ぼす可能性が高い連続メモリより、各ユーザが作成した磁気カードを読み込ませるだけで機能や定数を一気に書き換えられる磁気カードリーダライタのほうが市場性があるとHPは判断、HP-95Cはお蔵入りとし、HP-97を継続して販売することにした。しかし、2年後の1979年、連続メモリを実装し、磁気カードリーダライタを別売オプションパーツ(195ドル=約42,900円)とした初代HP-41シリーズであるHP-41Cを295ドル(約65,000円)で市場に投入したところ、ヴァージョンアップを繰り返し足掛け11年5ヶ月間販売されるという超ベストセラー機種となったことから、このときHPが下した「HP-95Cは販売中止」という決断は誤っていたことになる。このような経緯から、HP製RPN電卓マニアがHP-95Cについて触れるときは「時代を先取りし過ぎた機種」と哀憫の情を伴うことになる。
    ではなぜHP-95Cの存在が知られたのかと言えば、「HP(の誰か)が倉庫で眠っていたのを放出したから」が正解のようだ。あまりの生産数の少なさ故、入手できるか否かは時の運。もし出品された場合は著しく高価になると思われる。ネットに転がっている全232ページのマニュアルを読むにつけ、少なくともHPの製造部門はHP-95Cの販売について準備万端整えていたことが窺え、寂寥感が増す。
  3. 磁気カードリーダライタで読み込ませることで、以下の機能や関数を拡張する。​
    • 移動平均
    • 作表(タビュレータ) 最大24行
    • 曲線あてはめ
    • カレンダー
    • 年金と複利演算
    • プログラミングの初歩(Follow me)
    • 三角形の決定
    • ベクトル演算
    • 多項式評価
    • 3行3列の行列式演算
    • の演算と求根
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    • HP-67/HP-97故障診断
  4. こうして現地のRPN電卓マニアと仲良くなると、状態が良いRPN電卓をeBay等へ出品する前に割安な価格で斡旋してくれたり、面白い情報を教えてくれたりするメリットも副次的に発生する。