HP-16C

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外装はまったく同じだが用途毎に内蔵されている関数が異なるHP-10Cシリーズのうちの1つ。チップセットの開発時のコードネームからVoyagerシリーズとも呼ばれる。本機は1982年7月1日〜1989年1月1日に販売された、世にも珍しい「マイクロプロセッサ論理設計・プログラマ向けの関数電卓」である。

元は電卓開発用の社内ツール

本機の出自は非常に興味深い。元々はHPの電卓開発エンジニアが新しい電卓を開発・デバッグするために内製した社内ツールを製品化したものである。即ち、本機が内蔵している関数は、マイクロプロセッサの論理設計やソフトウェアの挙動を確認するために特化しており、プログラミング対象のマイクロプロセッサをエミュレートするのが主目的である。HEX16進/DEC10進/OCT8進/BIN2進の各数値を、異なる基数同士であっても基数を揃えずにそのまま整数演算/ビット演算/論理演算でき、その結果を含め、スタックに積まれた数値の基数変換を本機単体で実行できる。このとき、ビット幅を1ビットから64ビットに設定でき、バイナリ計算も符号無し/1の補数/2の補数を指定できる。数値関数も右/左シフト、マスキング、論理演算できる。その代わり、通常の電卓で必ず実装される基本機能である「10進の四則演算」ですら「実数の演算出来ます。」とマニュアルで記載する程度という思い切った構成である。

この種の〝変換が面倒だがプリミティブな演算〟を関数キーイン1発で実行する専用電卓は他社からも発売されておらず現在に至るまで唯一無二だが、裏を返せば、マイクロプロセッサの論理設計者やプログラマ以外には使い様が無いため、販売期間中はあまり売れなかったらしく、数が少ない。ただ、管理人と同等以上の年齢の電子工作趣味者やソフトウェアエンジニアが本機を所有している確率が非常に高い。

PIC等のマイコンで電子工作趣味者が個人で組込チップ用ドライバを機械語で書くような現代なら売れると思うが、現時点でも再販されていない。この状況に業を煮やしたRPNマニアの手で、HP製の他のRPN関数電卓(特にHP-48SXHP-48GX)に本機をエミュレートして実装するソフトが出回っている[1]

先述の通り、本機がeBayをはじめとする中古市場やオークションサイトに出品されるのは極めて稀で、出品されたとしても500ドル以上の高価で取引される。

スタック 3+1段
プロセッサクロック周波数 220kHz (Voyager 1LF5-0301)
使用電池 LR44×3個
製造期間 1982年〜1989年
製造国 アメリカ
1982年発売時の定価 150ドル (約37,500円)

脚注

  1. 本機に実装された関数はHP-42Sに実装されているものの、痒いところに手が届かない感じに全てではなく中途半端なため、本機をエミュレートするソフトが作成される動機付けが余計強まったという側面がある。